10日ほど前のことになるがレオン・フライシャーがN響に客演して皇帝を弾くということを不意に思い出して聴きに出かけた。台風だったか、たいへん荒れた天気の日だった。夕方の6時開演で、直前に着いて当日券で聴いたのだが、出かけて驚いた。あんな天気の悪い日だったにもかかわらず、NHKホールの前の道(代々木公園の一部?)にはたくさんの人がいて、ブースが立ち並び、マーケット状態。私はまったく知らないうちに「タイフェスティバル2008」の会場に紛れ込んでしまったのだった。
とにかく開演時間直前だったので、人波をかきわけかきわけ、大急ぎで通り抜けたけれど、その間にも目のハシにはおいしそうなフルーツが山積みされたお店やタイフードのお店、激安衣料品の店などがちらちらと見えて気になってしまった。雨の夕方だったから撮るものもないだろうとカメラを持って出かけなかったのはうかつだった。とはいえ、持っていたとしても写真を撮る時間がなかった、暗くて天気も悪いから撮りようがなかった、というのは残念な話。
演奏会の前半を聴き終え、休憩時間に外へ。(この日、私は都合で後半を聴かないで帰った。) 雨模様、既にあたりは真っ暗。5月半ばというのに肌寒い。道を歩く人の数も多くなく、はやフェスティバルも店じまいという頃合。出店していたお店の中でも特にフルーツや試食用のカレーなどを用意していたお店は、用意した分を早く処分してしまおうとお店の人たちがいっしょうけんめいにお客の呼び込みをやっていた。
安いよ、甘いよ、おいしいよ、本場ものだよ、マンゴーにマンゴスチンにドリアン。
…ドリアン!
そうだ、さっきから私の神経を逆なでていたナマごみのような「異臭」の正体はドリアンに違いない! 見ればあちこちの店頭に山積。こんなにたくさんのドリアンをライブで見られるなんて、渋谷ってすごいなあ…と妙なところで感心している間にも、売り子の店員諸兄の声が響く…「甘くておいしいドリアン、すぐ食べられますよー!」 叫ぶフルーツショップのお兄さんのそばでは店員さんたちがドリアンを切り分けて小さな容器に入れてお客さんに売っていた。
「ドリアンって、よく売れるもんなんだなあ。実はファンが多いんだな」とか、「すごい味だというウワサはきくけど、ドリアンって甘くておいしいのか」とか、「すごいニオイだけど、食べてみたら結構おいしいのかな」…といったことが瞬時に頭の中を駆け巡る。
実は私はドリアンを食べたことがなかったのだ。食べたいとも思っていなかったけれど、目の前で、すぐ食べられるようにと切り身で売られ、しかも安いとなれば、「まずいかも」という発想は浮かびもしない。店員のお兄さんも「甘くておいしい」と叫んでいるではないか。売っている場所で食べている人もいるから、店員氏の言葉にウソがあればお客さんが苦情を言っているはずだ。でもそんな人はいない。これはほんとにおいしいのかも…? 私は本質的に食いしんぼうだから、「おいしいのかも。いや、きっとおいしいんだ」と思いはじめたら、食べてみないと気がすまなくなってくる。
いくらか忘れてしまったが、500円くらいだったか。かぶりついても、(さすがの私でも)ひとくちでは食べられないくらいの切り身を買って、その場ですぐに食べてみた。
「…」 (シーン)
人は本当にショックを受けると言葉を失う、と言われるが、ほんとだ。
「にゃー」
(↑声に出さず、心の中でじっと泣く時はなぜか本性が猫になる)
にゃー。 にゃー にゃー (←涙目)
いやはや、驚いたのなんのって。まったりとしたクリーミーな食感。濃厚な舌触り。こってりした甘さ。そして「なんじゃこりゃぁー」とジーパンこと松田優作の声色も飛び出そうな(古っ!^^)異様なニオイがノーテン直撃。ドリアン攻撃をくらったかけがえのない、しかし「ひよわ」なノーテンはあえなく沈没。口に入れた瞬間の出来事。これを噛んで飲み込む勇気が出ない。しかし、「そこ」に入れたままにもしておけない。公道上での立ち食いということもあり、「えいや!」とバカ力を出して(食い意地にバカ力もないもんだが…)、一気に頬張ってむしゃむしゃと食べて飲み込んだ。
…が、驚いたし、異様な食べ物だなと思ったけれど、実はそんなにマズイとは思わなかった。(ただし、また食べたいとは決して思わない) 正直なところ、「なんだ、これなら納豆の方がもっとニオイがきついな」とまで。我が家では私の知る限りでも80年くらい昔から、もしかしたら、もっともっと昔から、「納豆は砂糖醤油で」食べる習慣だが、個人的にはニオイと味のきつさは砂糖醤油の納豆の方がまさっていると思った。納豆を砂糖醤油で食べると言うとたいがい驚かれるし、「絶対ムリ」「ありえない」とまで言われるのだが、その感覚でいけば、ドリアンは「じゅーぶんにありえる」のかもとさえ。 (ちなみに、砂糖醤油+納豆は私の大好物)
独特のニオイの食べ物については好みが極端に分かれるけれど、慣れの問題もあるのかなとも思う。だから何回か食べてみたらドリアンも大好物になるかもしれない。それにしても、あのニオイと味には久しぶりに驚いた。ドリアンで卒倒しそうになった私は、その帰り道、さらに別のフルーツショップでマンゴーとマンゴスチンを買い求め、ドリアンの記憶を払拭しようとそれらのフルーツをがつがつと食べた。その上、ショックから立ち直るためには必要だ、と言い訳して、ドリアンともタイフェスティバルともまったく無関係なモスバーガーを買って帰ったのだった…。
食べ物で受けた衝撃は食べ物で癒す。
(食いしんぼうの言い訳か?)
●関連リンク
・ ドリアン (果物ナビ)
※いろいろな果物について詳しく解説された、果物の百科事典サイト。
・ ありがた迷惑なお土産、ドリアン羊羹 (Excite Bit コネタ)
※タイのドリアン事情と、お土産用ドリアン製品について書かれた、とてもおもしろいコラムです。