エッシェンバッハ@フィラデルフィア管 マーラー / 5番、9番

●5/22(日) サントリーホール
エッシェンバッハ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 東京公演
(ピアノ:ラン・ラン)

ベートーヴェン / ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 op.58
マーラー / 交響曲 第5番 嬰ハ短調


●5/23(月) サントリーホール
エッシェンバッハ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 東京公演

マーラー : 交響曲 第9番 ニ長調


 都響に続いて、再びマーラーの公演。今度はエッシェンバッハの指揮。前回来日した時、彼はハンブルクのオーケストラと一緒にやってきて、その時にもマーラーの5番を演奏した。今回は19日にも東京でマーラーの1番を演奏したそうだけれど、私は出かけなかった。(ヨーヨー・マがソリストで、前半にドヴォルジャークのコンチェルトを演奏したとのこと。)

 マーラーの音楽に、私は自然なものと不自然なもの、崇高で美しいものと陳腐で通俗的なもの、調和したものと「いびつなもの」…といった相反するものの2つを同時に聴きたいと期待している。その相反するものが「矛盾しながら、矛盾しない形で」(!)存在している、ということの驚異がマーラーの本質のある部分を担っているとも感じている。だから、不自然さ(「人工的」という意味ではなく)とか陳腐さ、安っぽさ、通俗ぶり、さらには「いびつなもの」、何かしら嫌悪感を抱かずにはいられないような不快感に近いもの…をマーラーの公演で感じることができればいつでも満足できる。それと同時に、極限までの美しさ、それも無垢な美しさというものがそこにあれば、本当に満足できるし、至福の時を過ごすことができる。

 エッシェンバッハはマーラーの作品から、ごく自然で素直な感覚を持っている人たちの感性からは、もしかしたら少しはずれるような、そうした何か「異質なもの」を(時には極端なデフォルメによって)えぐり出そうとしているように思えた。「マーラー」の濃厚なエキスを、さらに濃厚に煮詰めて作られる「魔女の厨」の怪しげな媚薬…などというイメージをふと想像してしまうと、エッシェンバッハがメフィストフェレスにも見えてくる。その一方で、どこまでも美しい響きが続いていた。陳腐なのに崇高で、醜悪なのに無垢な美しさに満ちている…ある意味では、私にとっての理想的なマーラー演奏だった。 (しかし、そんな私の最愛のマーラー演奏が、エッシェンバッハが描くような世界とはこれまた異質なジョージ・セル@クリーヴランド管弦楽団の6番のCDだったりするのだから、自分で自分の言っていることの辻褄が合っていないような気もする…)

 フィラデルフィア管弦楽団の力演はすばらしかったと思う。アメリカのオーケストラの響きの特徴なのかもしれないけれど、金管には独特のパワーがあって、あのブラスの響きには終始、圧倒され続けた。ロシアのオーケストラの金管もいつもすばらしいパワーだと感じ入るけれど、フィラデルフィアのオーケストラもすばらしかった。

 23日の公演では、9番の終楽章が終わった後の静寂が殊更すばらしい瞬間だった。エッシェンバッハが手をゆっくりとおろす中、完全な静寂がホールにみなぎっていた。指揮者の動作といい、静寂に支配されたサントリーホールの大ホールの雰囲気といい、まるで能の舞台を観ているような気がした。エッシェンバッハの動作も本当にゆっくりで、(オーケストラの公式ブログでは20秒の静寂と報告されていたけれど)、私は30秒くらいはあったのではないかと思った。なんと偉大な静寂だったことか。


フィラデルフィア管弦楽団 2005年アジアツアー(英語)
http://www.philorch.org/styles/poa02e/
www/tour_2005/tour.html

アジアツアーの公式ブログ(英語)
http://www.philorch.blogspot.com/

マーラーの9番についてのエッシェンバッハのコメント(日本語)
http://www.kajimotomusic.com/japanese/
news/philorch.html

(リンク切れの場合あり)

エッシェンバッハの公式サイト(日本語)
http://www.christoph-eschenbach.com/


(追記1)
 ラン・ランについては、別の機会に書くこともあるだろうから、今は書かないでおく。(長くなりそうだから)

(追記2)
 22日の公演はNHKのテレビ収録あり。

(追記3)
 23日の公演がCD発売されたらいいな^^
フィラデルフィア管公式ウェブサイトの東京公演のフォトギャラリーの中にサントリーホールでのレコーディング風景あり。)

(追記4)
 フィラデルフィア管といったら、忘れてはいけないのが同オーケストラ自主制作のサヴァリッシュ御大@シューマン全集フィラデルフィア管のウェブページに詳細あり。