オシップ・ガブリロヴィッチ (2)

前の記事からのつづき)

 ここに収録されているのは1920年代の録音。ハロルド・バウアー (Harold Bauer (1873 London - 1951 Miami) との共演によるアレンスキー:2台ピアノのためのワルツが2ヴァージョン、同じくバウアーとの Scheutt : Rococo-Minuet、そして Fronzaley String Quartet (1902-1928, NY) との共演によるシューマンのピアノ五重奏曲 op.44(短縮版)を含む。 (末尾に収録曲の一覧を掲載)

 まだブラームスが生きていた時代の世紀末のウィーンに学んだ演奏家らしい馥郁たる風情のあるピアノ。収録されている小品群は浪漫的でいずれも洒落た曲。瀟洒なサロンで演奏されるのにふさわしい。シューマンやブラームスの曲が好きな人であれば、すぐに気に入るであろうたおやかな旋律が随所にあふれている。ガブリロヴィッチの演奏も、この「ディスク上の仮想サロン」いっぱいに咲き零れる花々の花びらを両手で受け止めるかのような優美さ耽美さを醸している。過ぎた遠い時代の響きは夢のように美しい。

 バウアーとの共演もすばらしいが(検索したらバウアーとのこのアレンスキーについて友人の pianophilia さんがブログに書いていらした)、Fronzaley String Quartetとのシューマンの五重奏曲もすぐれた演奏だと思う。バッハ(サン=サーンス編曲)のロマンティックなアプローチは今の時代になってみればかえって新鮮で美しいと思うし、シューマンの独奏曲2曲などは特に心地よい。収録されているシューマンの独奏曲は幻想小曲集 op.12 の「なぜに Warum?」と色とりどりの作品 op.99 の「ノヴェレッテ Novellette」だが、ゆったり夢みごこちの「なぜに」に対して、デモーニッシュな気配をはらむ、いや時として鬼気迫る「ノヴェレッテ」、これら正反対の曲想を持つ2つの曲をそれぞれ巧みに表現しているあたりは趣に富んでいておもしろい。(そしてどちらの曲もそれぞれ全曲を通して聴いてみたくなる。)

 以下、ライナーにある収録曲を列挙しておく。手元に届いたCDのライナーではシューマンとモシュコフスキの曲順が間違っていたが、この錯誤を訂正しておく。(※)

"OSSIP GABRILOWITSCH, His Issued and Unissued Recordings" (Vai [VAIA/IPA 1018])

1. Arensky: Waltz from Suite for two Painos, Op.15 (with Harold Bauer)
 (9/19/29) (CVE 45630-13)
2. Scheutt: Rococo-Minuet (with Harold Bauer)
3. Bach-Saint Saens: Bouree, from Violin Partita in B minor
4. Gluck-Brahams: Gavotte
5. Moszkowski: En Automne, Op.36, No.4
6. Schumann: Warum? from Fantasiestucke, Op.12 (No.3)
7. Schumann: Novelette, Op.99, No.9
8. Glazunov: Gavotte, Op.39, No.3
9. Gabrilowitsch: Melody in E minor, Op.8
10. Gabrilowitsch: Caprice, Op.3
11. Delibes: Passepied from Le roi s'amuse
12. Grainger: Sheperd's Hey
13. Arensky: Pres de la mer, Op.54, No.4
14. Arensky: Waltz from Suite for two Pianos, Op.15 (with Harold Bauer)
  (9/26/28) (CVE 45630-3) Previously unissued
15. Schumann: Quintet for Piano and Strings in E-flat, Op.44 (abridged)
  (Fronzaley String Quartet)

※シューマンの録音のみ詳細データを次のページに掲載している。

オシップ・ガブリロヴィッチ (当サイトDB)
Fronzaley String Quartet (当サイトDB)
ハロルド・バウアー (当サイトDB)

●関連リンク
Ossip Gabrilowitsch (Wikipedia)
Ossip Gabrilowitsch (Mark Twain Project)

デトロイト交響楽団

ガブリロヴィッチの結婚を報じる記事
The New York Times, October 7, 1909
MISS CLEMENS WEDS MR. GABRILOWITSCH
Mark Twain, in Scarlet Cap and Gown, Sees His Daughter Married to Russian Pianist.
AVOIDS "CEREMONY DELAYS"
Humorist in Prepared Interview Says a Happy Marriage is One of the Tragically Solemn Things of Life.

クララの訃報記事
The New York Times, November 21, 1962
Mrs. Jacques Samossoud Dies; Mark Twain's Last Living Child

ガブリロヴィッチの娘ニーナの訃報記事
The New York Times, January 19, 1966
Nina Clemens Gabrilowitsch, 55, Twain's Last Direct Heir, Dies

(※)全部を確認したわけではなく、シューマンのところだけを確認しただけだが、少なくとも、私の手元に届いたCDのライナー上の第5曲・第7曲はCDに収録されているものとは入れ替わっていた。(ライナーでは第5曲; Schumann: Novelette* op.99-9 (*Novellette は英語式に"l"が1つ脱落), 第7曲; Moszkowski: En Automne op.36-4 とあるけれど、CDでは第5曲がモシュコフスキ、第7曲がシューマン op.99-9)