スタインバーグとリッパートのオール・モーツァルト N響 9月B定期

●9/1(木) サントリーホール
 N響9月定期(Bプロ2日目)

(指揮)ピンカス・スタインバーグ
(テノール)ヘルベルト・リッパート

(オール・モーツァルト)
歌劇「ドン・ジョヴァンニ」 K.527 より
 序曲
 ドン・オッターヴィオのアリア

歌劇「魔笛」 K.620 より
 序曲
 タミーノのアリア

歌劇「イドメネオ」 K.366 より
 序曲
 イドメネオのアリア

(休憩)

交響曲 第41番 ハ長調 K.551 「ジュピター」

 ピンカス・スタインバーグさん(1945 - )はボストン交響楽団の音楽監督だったウィリアム・スタインバーグさん(1899 - 1978)のご子息。N響にはこれまで4度客演したとのことだけれど、たぶん、私はそのうちの3回、コンサートの数にしたら7~8回くらいは聴いているのではないかと思う。けれど、残念ながら、それらのほとんどすべてについて、記憶が残っていない。唯一の「演奏を聴いたことがある」という「かすかな記憶」は父君の名前によって繋ぎ止められているものだ。申し訳ないと思うものの、仕方ない。

 今回の公演はオール・モーツァルト・プログラムだったし、しかも有名な歌劇から特におもしろいアリアを抜粋して聴かせていただく趣向になっていた上、いずれも私の好きな曲ばかりだったから楽しみにしていた。けれど、結果的には、いまひとつ楽しみ尽くすことができなかった。スタインバーグさんの音楽の作り方に、私自身の嗜好や感覚が乗らなかったせいもあったのだけれど、リッパートさんの調子がいまひとつだったことも理由の1つだった。とはいえ、リッパートさんの音楽性はやはり得がたいものだったし、モーツァルトの楽しさを満喫できたコンサートではあった。

 オール・モーツァルトということで思い出した。N響はモーツァルトの没後200年記念(1991年)に合わせて、サントリーホール主催による3年連続公演(海老澤敏先生が監修したコンサート)に取り組んだけれど、あれに匹敵するような大型の企画が、来年の記念年に向けてはじまった気配はない。(はじまって「いる」としたら、既に今年か昨年のうちにはじまって「いる」必要があった…。)
 私はあの没後200年記念の3年連続企画がはじまる以前から、N響のサントリー定期の会員だったため、あのモーツァルトのシリーズも都合がつく限りのほとんどの公演を通して聴くことができた。だから、「N響 + サントリー定期」というと、どうしても「モーツァルト!」のイメージが思い浮かぶ。(※)

 モーツァルト・シリーズに限らず、サントリーホールが「N響サントリー定期」を主催して演奏会の企画を立てていた頃の方がプログラムに一貫性があったし、いろいろ工夫があっておもしろかった。確か、モーツァルトの前は都市と音楽のシリーズで、世界各国の都市にまつわる音楽を1回のプログラムの中に関連づけていた。ロンドンならハイドンとモーツァルト、南米ならヒナステラやヴィラ=ロボスをメインに据える、という形。あのシリーズもよかった。

 最近のN響主催の定期公演のプログラムは(そうは思わない人もいるかもしれないけれど)、私にとってはどこかありきたりな気がして、いささかおもしろみに欠けると感じることがある(そういう意味で先のタン・ドゥンの作品の公演は、プログラムの前半は蛇足だったとはいえ、企画としてはよかった)。

 NHKホールでの定期公演は当日券を買って聴くことにしているけれど、残念ながら、最近はプログラム(とソリスト、指揮者の組み合わせ)にいまひとつ気乗りしないことが多く、足が遠のきつつある。

 以前の定期公演で忘れられないのは、サロネン指揮のメシアンの「トゥランガリラ交響曲」(後にデュトワ指揮で再演)、デュトワ指揮のオネゲルの「火刑台上のジャンヌ・ダルク」、若杉指揮のシェーンベルクの「グレの歌」、デュトワ指揮のシマノフスキの「ロジェ王」、R・シュトラウスの「エレクトラ」(音楽監督最後の定期)…。これらの演奏の難しい超大曲を(NHKホールでの)定期で取り上げて見事に演奏したのだから、N響はたいしたものだと思う。今、つらつらと思い出したもののように、企画として気合の入ったもの、おもしろいものが、これからの定期公演の中にもあるといいなあと思う。

(※)このサントリーホール主催のN響定期シリーズは、N響主催の定期がNHKホールからサントリーホールに移ってきた時に終わってしまった。大勢いた定期会員のうち、希望者はそのままN響のBプロの定期会員として優先的に席を割り当ててもらえたので、私のように、ずっと続けて聴いている人も多いのではないかと思う。