四天王寺から神戸に至る (3) - 仁王像

 ところで、前の記事に掲載した極楽門の転法輪を写真に撮っていた時、不思議なことがあった。門に寄ったり離れたりしながら転法輪を眺め、転法輪を回し、そこから北鐘堂を見ていた時、遠くにいた老婆がこちらにやってきた。小さい、腰のまがった人で、足元が少しおぼつかないのだが、私の顔を見て、そして確実に私を目指してやってくる。時間でもたずねられるのかなと思っていたが、老婆は私の目の前に立つと意外なことに、「あなたはどちらからおいでになったかわからないけれど」と切り出した。

 老婆は言う。「あなたはどちらからおいでになったかわからないけれど、きっと遠くからおいでになったのでしょう。せっかくおいでになったのだから、ちょっと歩くけれど、外の門までお行きなさい。この門を護っておられた仁王さんは、今、外に出て、外の門におられるから、その門まで行って、ちょっと拝んでおいでなさい。少し歩くことになるけれど、階段をのぼるわけでもないのだから。余計なことかもしれないけれど、せっかく遠くからおいでになったのだから、あの道をまっすぐ行って、池の中の道を通り抜けたところから外の門においでなさい」と。

 この老婆はずいぶんと遠くから私を見極めて、私にこれこれの話をしようと足を向けたのだろうけれど、あんなに遠くから見て、私が遠くから来たということがどうしてわかったのだろうと不思議なことに感じた。けれど、これも仏縁、せっかく教えていただいたのだからと、宝物館の拝観を後回しにして、外の門の仁王さんを見に行くことにした。

 …と、ここまで書いて、いろいろ調べてみたら、どうも私は勘違いして、別の門に行き、別の仁王像を見て来たのではないかと次第に思えてきた。

 確かに老婆の言う通り、池の脇を抜ける道をまっすぐ行って、外の門(東大門)から四天王寺の境内を抜け、寺の外から仁王像を見た。その時、「これはどうも真新しい仁王像だなあ」と思ったのだが、今調べてみたら、やはり新しい仁王だった。(この仁王像は 参考URL(1) によれば平成14年に開眼式が行われたもの)

 古い仁王像は中門に建っていて、私はこれを見てこなかった。そもそも、あまりにものんびり、あちらこちらをだらだらと見ていたために、しまいには時間がなくなり、肝心の金堂や講堂、五重塔を見ることができなかった。四天王寺に行って、子供の頃に教科書で習ったあの「四天王寺式伽藍配置」を間近に見てこないとは、なんたること。蕎麦屋に行って蕎麦を食べずにカツ丼を食べて帰ってくるようなものではないか。(しかし、まあ、私は蕎麦屋にカツ丼を食べに入るのもしばしばなのだ、実のところ)

 違う仁王像を見てきたような気もするのだが、あの老婆は確かに「池の中の道を通り抜けた向こうにある外の門」と言った。境内の案内図を見て、あの時歩いた道を思い出しても、やはり老婆が言ったのは東大門の新しい仁王像のことだったのだろう。中門の仁王像は見られなかったが、老婆が見て来いと言った仁王像は見られたのだから、それでよし。それにしても、不意に私の眼前に現われ、仁王を拝んで来いと言ったあの老婆は一体何者であったのか。今考えてみると、不思議さはいやます。

(つづく)


北鐘堂


東大門


東大門の仁王像

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四天王寺から神戸に至る (1)
四天王寺から神戸に至る (2)- 転法輪
四天王寺から神戸に至る (3) - 仁王像
四天王寺から神戸に至る (4) - 石棺の蓋
石棺の蓋 : 補足
四天王寺から神戸に至る (5) - 太子の御衣
四天王寺から神戸に至る (6) - 極楽浄土の庭
四天王寺から神戸に至る (7) - 異人館をめぐる

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